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菩薩行
日本に住むのは覚悟がいる。これは日本に移り住んできたカナダ人の友人が一連の台風が去った後私に言った言葉です。南の海で発生した台風はそのほとんどが西に進み、中国大陸に上陸する直前で大陸の高気圧におされ、急に進路を北向きに変えはじめます。その方向にはちょうど日本列島があり、結果として台風が日本にやってくる確率が非常に高くなります。更に日本列島周辺は地震を引きおこすプレートが複雑に入り組んでおり、周期的に大規模な地震が発生しやすい状態になっています。このように台風襲来と地震発生は古来からの日本の宿命であり、確かにある程度の「覚悟」は日本で生きていく限り常に必要となることでしょう。
しかし、自然災害慣れしている日本人にとっても、東北大震災の被害の様子は決して忘れることのできないものとして語り継がれることでしょう。いまだ続く被災地の窮状には心が痛みます。
近年、大規模な災害が発生するたびにボランティアの方々が全国より各地より被災地にやってきて救援活動をする姿が報道されますが、彼らの真心あふれる行動には本当に頭の下がる思いです。
真言宗のお寺でよく用いられるお経に理趣経というお経があります。真言宗では日常の勤行や法要の際によく読誦されるお経で、真言密教の教えを表現する大事なお経です。その理趣経に「百字の偈」と呼ばれる箇所があります。文字通り百字からなる短い経文なのですが、理趣経の真髄が現されているといわれています。その一行目に、「菩薩の勝慧ある者は、乃し生死を侭盡すに到るまで、恒に衆生の利を作して、而も涅槃に趣かず」と説かれています。簡単にいうと自分が望んでいるものをあえて捨てても人のために尽くす、それが菩薩行であり、真言行者(信仰している者)のあるべき姿なのだ、ということになります。ボランティアとは自ら願い出て、ただひたすら他の人の為につくす無私の活動であります。考えてみるとまさにその行いは菩薩行そのものだと言えましょう。
たしかに日本は災害が多い国ですが、人様のことを考え菩薩行に励む心優しき人も多数住むすばらしい国でもあるのです。海外の人たちは災害が発生した後、略奪や暴動が起こらず粛々と復興に向かう日本人の姿に驚くといいます。日本人にとっては当然のことかもしれませんが、他の国では災害の後、時として人間同士の修羅場が発生することもあるようです。災害が多いというのは嫌なものです。しかし、災害が多い国だからこそいざというときに他につくす菩薩行に励む日本人の姿があるのかもしれません。
(平成16年12月十輪寺通信より一部改訂)