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バトンゾーン
オリンピックには数多くの種目がありますが、なかでも陸上競技のトラック競技は人気のある種目の一つです。100mを9秒台で走る海外の選手を見ているとその圧倒的なパワーに驚嘆させられます。日本人はどうも体格で劣るせいでしょうか、10秒を切ることはできず、メダルには手がとどきません。ところが、日本は400mリレーで北京オリンピックで銅、リオデジャネイロオリンピックでは、何と銀メダルを取り世界を驚かせました。日本の快挙の秘訣は正確性だといわれています。走る速度は100m9秒台のアメリカやジャマイカの選手にはおよびません。そこでバトンを渡すタイミングを精密機械のような正確さで行い、走力不足をカバーしたのです。
さて、このリレー競技には守らなければならない大事なルールがあります。それは決まった範囲内で次の走者にバトンを渡さなければ失格になるというものです。早すぎてもだめ。遅すぎてもいけません。その範囲のことをバトンゾーンというのだそうです。
保育園でも運動会にリレーをします。小さな子どもたちがバトンを持って走る姿は見ていてとても楽しいものです。ひょっとしてこの中から将来オリンピック選手が出るのじゃないのと思うような時もあります。ある年の運動会、年長組のリレー競技は抜きつ抜かれつの白熱のレースになりました。1位と2位の差はわずかで、どちらが勝つのか最後までわかりません。いよいよあと1周、アンカーの選手たちはバトンを持った走者が来るのを今か今かと待っています。ところがその時、一人の子が待ちきれず走り出したのです。後ろへ・・・!バトンを持って走ってくる子に向かってコースの半分ぐらい後ろに走っていき、バトンを受取りにいったのです。後ろに走る子どもの姿に会場の観客は大笑いと大声援。でもバトンゾーンのルールから言えば ゾーンを越えてバトンの受け継ぎをしているので、その子は失格となるのです。それを見ていてふと思ったのは、何事も引き継ぎをするにはふさわしい時期、期間があるのだということです。早すぎてもいけないし、遅すぎてもいけない。ちょうどそふさわしい時に、伝えたい人に伝えたいものを伝えなければならないということです。
お盆やお彼岸になると最初墓(野原地区のお墓。弘法大師がこの地区で最初にお開きになられた墓所といわれており、最初墓と呼ばれている)ではお墓参りの人でにぎわいます。中には小さな子どもたちも両親に手を引かれてお墓参りをしており、ほほえましい光景に心が和みます。子どもたちにとってはお墓参りよりも、水かけがおもしろそうで、お墓参り用のバケツの水で水遊びに夢中です。それでもかまわないと思います。子どもといっしょに家族でお墓参りすることがとても大事な引き継ぎとなっているのですから。たぶん20歳になってから、墓参りに行けといっても行かないでしょう。バトンゾーンを越えてしまっているからです。
さて、運動会で、後ろに向かって走った子ですが、なんと一番をとりました。ルールでは失格なのですが、小さな子どものこと、だれもそんな無粋なことは言いませんでした。念のため・・・。
令和3年4月