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絶対的な信頼
子どもの目線で物事をみよ、とよくいわれますが、大人と子どもというのは、同じ世界に住む人間には変わりはないのですが、目線からいえばまったく別の世界に住んでいると言えるのではないでしょうか。見る位置を変えてみると、大人にとってなんでもないことが子どもにとって大変なことなのだ、ということもあることでしょう。
公園でよくこのような光景を見ることがあります。お父さんが赤ちゃんを高い高いをしてあやしている。赤ちゃんはきゃぁきゃぁと声をあげ大喜び。なんでもないごく当たり前の光景ですが、しかし、赤ちゃんの目線から言えばこれは本来、大変なことなのかもしれません。例えば身長50センチ程度の赤ちゃんが、身長170センチの親にだっこをしてもらい、更に親の頭の上で高い高いをしてもらったとします。この場合、赤ちゃんは自分の身長の約4倍の高さにあげられたことになります。これを大人にあてはめると、170センチの大人なら、約7mの高さにあげられたことになります。7mといえばビルの3階にあたる高さであり、そんな所に自分自身が誰かの手によって突然引き上げられたとするなら、どう感じるでしょう。たぶん誰だって恐怖を感じ、喜ぶことなどとてもできないことと思います。
しかし、赤ちゃんはそのような高さにあげられても恐怖を感じません。感覚が未発達であり、高さを認識できないからという理由もあるでしょう。また、今までに高いところから落ちた経験がないので、高さがもたらすかもしれない痛み、恐怖を知らないからということも可能でしょう。しかし、最大の要因は、親に対して絶対の信頼があるからではないでしょうか。どんな時でも自分を守ってくれる。自分に痛みや害をあたえるはずがない。そんな赤ちゃんなりの絶対的な信頼と確信があるからこそ恐怖を感じることがないのではないのかもしれません。
ちべん保育園、前園長の桜井貴美恵先生より園長を引き継いだとき、私は、先生に園長として一番大事なことはどのようなことでしょうと聞いたことがあります。すると先生は、お子さんを朝来たときと同じ状態で保護者にお返しすることだとおっしゃいました。私は、それを聞き、なんだそんなことか。当然ことだし、あたりまえのことじゃないか、と思ったのです。しかし、いざ現場に入ってみるとそれがどれだけ大変なことかを思い知らされました。注意をしていても怪我を防げないこともあるし、危険を予想して事前に対応や対策を講じますが、予想をしないことも起こるのです。100名を越える子どもたちを日々をお預かりすることは、想像以上に大変なことなのです。
日本では社屋の屋上にお社を祀(まつ)する会社が多いものです。超近代的なビルにお社は考えて見ると不似合いなような感じがします。あるとき知り合いの会社経営者に、なぜお社をお祀りするのですが聞いたことがあります。すると経営者は、商売をしていると将来が心配になるのです。一寸先は闇、今状態が良いからといって、これからも良いとは限らない。でも、どんなことがあっても会社と従業員は守っていかねばならない。だから、不安になるし、神仏にもすがりたくなるのです。だから、私はお社をお祀りするのです。多分、どの会社の経営者も同じように考えておられるのではないでしょか、とお答えいただきましょう。
実は、会社の社長さんと同じように、ちべん保育園の職員室には、辯天宗より下賜していただいた辯才天(御分身)をお祀りしています。そして、毎朝、きょうもどうか一日子どもたちが無事に過ごせますようお祈りをしているのです。この世の中には不安で充ちています。そんな世の中だからこそ、どんな時でも、いかなることが起きようとも護られている、必ず良き方にお導きいただけるとの絶対的な信頼と確信が大人にも子どもたちと同じように必要なのかもしれません。
令和3年4月